・総ページ数
全70ぺーじ
・あらすじ
不知火華恋(しらぬいかれん)──
清廉潔白、聡明叡智。純情無垢を絵に書いたような、深窓の令嬢。
笑みを絶やさず、平等に愛を振りまくお嬢様を、いつだか誰かが天使と言った。
……確かに、その通りだ。お嬢様は天使のように清らかで、温かく、可憐でいらっしゃる。
お嬢様の慈愛は、彼女の手が届く範囲の人間全員に差し伸べられる。
例えば、先日。新しく入ったメイドがレッスンの予定日を誤った際も、罵倒の言葉ひとつなく「入ったばかりで分からないことも多いでしょうし、仕方ないわ」なんて優しく声を掛けていたのだ。今にも泣き出しそうなメイドの肩に手を添え、慰める姿は、確かに天の使いとしか言いようがない。
幸いなことに該当レッスンの担当講師は融通の利く人物で、お嬢様はもちろんメイドもお咎めなしにて、この件は幕を下ろした。
類似のエピソードは他にもある。お嬢様の配膳に失敗したメイド、苦手な食材を把握していなかった見習い調理師、果てにはお嬢様お気に入りの薔薇を剪定してしまった庭師にも…あの方は、いつでも優しかった。
このくらいのミス、どうということない。人はいつでも過ちを犯してしまうもの。
寛大な御心に、この屋敷の誰もが救われてきた。もちろん、私もその一人であり……。
私は、お嬢様に仕える執事。後藤冬馬(ごとうとうま)。
お嬢様の成長を幼い頃より見守り、さながら親の心地でこれまで彼女に仕えてきた…のだが。最近、どうにも、彼女のことが別の意味で気になり始めている。
しなやかな体躯ながらも、同年代の女性と比べご立派な成長を遂げられた胸部。異性を魅了してやまない柔らかそうな臀部。私がいるにも関わらず、白魚のような肌を惜しげもなく露出させては無防備に安らぐ御姿。
ベッドの上で眠るお嬢様の体に布団を掛けながら、部屋を満たす彼女の香りを肺いっぱいに取り込みながら、今すぐ彼女の〇さな口へ私のものをぶち込めたのならどんなに良いかと考えを巡らせて。
いけない想像は、すぐに私の下半身を締め付け熱を生みます。どうしようもない劣情と、罪悪感と興奮と。
自室へ戻り、頭の中を駆け巡る邪な妄想をオカズに自身を慰める日々。お嬢様はもちろん、他の使用人にも知られないように、悟られないように、これから先も彼女の成長を見守るために欲を吐き出し自ら処理し続けるのだと。
あの日までは、そう考えておりました。
「……婚約、者。ですか」
「はい。父が懇意にしている企業の、御子息様と」
その時は突然訪れました。
お嬢様も人の子であり、財閥の御息女。いずれ、どこかの御曹司と結ばれることくらい理解しておりました。
しかしいざ、それを目の当たりにしてしまえば…これまで何度も、頭の中で唱え続けた言葉が何一つ出てこないものです。
真っ白になった脳みそでどうにか捻り出した言葉はきっと正しくて、もう、自分でも何を言ったのか覚えておりませんが、お嬢様ががただ一言「ありがとう」と微笑んでいた記憶だけは強く残っております。
それからお嬢様は、度々婚約者の方とお会いしており…私はその度に、彼女からお話を聞いておりました。
「冬馬、聞いて。今日はあの方とランチへ行ったの」
「この間、こんなプレゼントを貰って」
「まだ数回しか会っていませんが…ふふ、一緒にいると物凄く心が安らぐんです」
柔らかい笑みを浮かべ、心底幸せそうに笑うお嬢様を見た日の夜は、一段と興奮し自らを慰めたものです。顔も知らない男性への嫉妬を募らせながら、お嬢様を手酷く抱く。そんな想像を膨らませ。
それから数カ月後。ようやく私の中でも整理がついてきた頃、その報告は舞い込んで来ました。
「来週ね、彼と旅行へ行くの」
それを聞いた瞬間、私の中で何かが弾けました。
二人で旅行、ということは、つまり。初めての夜を共に過ごされるということ。
お嬢様もそれを分かっているのだろう…どこか気まずそうに視線を揺らしては頬を染めている。
どこぞの男に食われるくらいなら…いっそ俺が、彼女を。彼女のすべてを食らってしまいたい。
「……お嬢様」
「ん?どうしたの?」
未だ楽しげに話を続ける彼女の声を無視して声を上げれば、お嬢様が首を傾げこちらを見る。
「…失礼ですが、お嬢様は性行為についてご存知でしょうか」
「…!?せ、性…!?」
お嬢様が驚いた様子で私を見つめる。
それもそうだろう。今まで、本当の父親のように思っていた相手から、そんな言葉が出てきたのだから。しかし、今更止まれるわけもない。
今の私はどんな顔をしているのだろう。まだ執事としての、お嬢様の知る私の顔が出来ているだろうか。それとも、もう、すっかり男の顔で彼女を見てしまっているのだろうか。
「…ち、知識としては、もちろん」
蚊の鳴くような声が聞こえる。今まで聞いてきたどんな声よりも小さくて、羞恥に満ちていて、愛らし
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